じっくりどうぞ修理記事★振り当たりの巻

機械式時計を動かさずに置いておくと特に目立って進んだりはしない
でも腕に付けると時計がものすごく進む
そんな症状は振り当たりの可能性があります
時計の心臓部のテンプという振動部が元気よく動きすぎているためです
通常ベストとされる振り角が270~280度、大きくても300度です
300度を超えてくると手を動かす時などに時計に加わる遠心力でテンプが360度以上振ってしまい、自由運動で往復する前に強制的に次の振動動作に入ってしまうため時計がすごく進むといった症状が出てきます

振り当たりのやらしい所は分解掃除後に起こることが多いのです
機械の想定以上にテンプへのトルクの伝達が良くなっている場合に起こります
ゼンマイのオーバートルク、アンクルの噛み合い 等です
分解掃除の洗浄が不十分だったりゴミが入っていたりする場合はそれが抵抗になって振り当たりは起こりません
分解掃除後でなくてもゼンマイのスリップの油切れで起こることもあります
ただ香箱の油が切れるほど使っている場合、他の部分で摩耗や油切れが起きているため、そちらのトルクの伝達ロスの方が大きいので振り当たりはまずおこりません
振り当たりはほとんどがゼンマイの入っている香箱という部品のゼンマイとのスリップ部に適切な注油を施せば直ります
しかし稀にそれでも直らない個体があります
アンクルの食い合い 第一停止が少なすぎる場合です
下記がその事例
自動巻きクロノグラフの代名詞 7750 です
測定器の数値を見ると313度ちょっとイケない感じです

※振り当たり起こしそう
第一停止の状態にして爪石とガンキの食い合いをを観察します

拡大します

ギリギリです
テンプの抵抗ともなる部分なのですが食い合いがないと時計は正しく動きません
第一停止の少なさは各部品の工作精度の高さがなせるワザでもあるのですがそれにしても少なすぎますね
爪石調整を行います、爪石はセラックという接着剤のようなもので固定してあります
熱を加えて爪石を少し出してやります
この爪石調整器、開発者が特許を取るとかなんとかやっていましたので申し訳ないですが非公開です

調整後↓

第一停止が大きくなりました、写真だと少し深く見えますが適正値・爪石衝撃面の1/6くらいです
この状態で測定機にかけてみましょう

287度まで振り落ち いい感じです
時計を修理する際は不可逆的な行為は最後にとっておくべきです
爪石調整に関しては接着材を温めて動かすだけですから元に戻すことは問題ありません
爪石が割れることもあるので交換前提に作られているからです
修理ブログを見ていると振り当たりの場合 土手ピンを削る、曲げる といった方法で振り落ちさせようとしている記事を見かけます
土手ピンを広げることでたしかに振り落ちはするとは思いますがそこで言われている振り角は測定器で見ただけの振り角です
機械で振り角を測定するのはいいのですが拘束角は設定し直したのでしょうか?
土手ピンを削る広げる、これらを行った場合、拘束角も変わっています
実際の拘束角より小さい値を設定して測定機にかけると測定機上の振り角は小さくなります
拘束角が分からないものは目視による測定が第一です
まあ爪石調整もそれなりに手間なので何とかナマクラ出来ないかと超高粘度のシリコングリスを爪石に試したことがあります
つけた瞬間、確かに振り落ちさせることに成功
が、翌日測定すると元の振り角に復活していました
甘かった(笑)
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